幻のなす『ぼたなす』の希少性と由来

高知県室戸市吉良川町日南地区に古くから伝わる伝統野菜「ぼたなす」は、日本全国でもこの地域でしか栽培されておらず、その希少さから「幻のなす」とも呼ばれています。
その理由は、現在日南地区で栽培している生産者はわずか4軒しかおらず、生産量が非常に限られているためです。
「ぼたなす」の名前の由来は諸説あるようですが、その昔ぼたなすの原型となった茄子が『ぼた餅』に似ていたことから名付けられた説が有力とされております。
一般的ななすの約5倍の大きさに成長し、立派なものになると500グラムを超えることもあります。
味わいの特徴は、とろけるような食感と強い甘み。京都の老舗料亭でも、10年連続ミシュラン三つ星を獲得した主人が太鼓判を押すほどです。

ぼた餅に形が似ていることから「ぼたなす」と呼ばれる
ぼた餅に形が似ていることから「ぼたなす」と呼ばれる

谷口ご夫婦のUターンとぼたなす栽培

生産者の一人である谷口精作さん(75歳)と律子さん(74歳)ご夫婦は、横浜で32年間勤めた会社を退職後、地元である日南地区にUターンし、実家の畑を引き継ぎました。
6年前から「ぼたなす」の栽培を始めましたが、当初は農業については素人で、技術的な支援を受けながら現在も試行錯誤を重ねています。
今年からはハウスでの栽培にも挑戦し、生産量の向上を目指しています。
非常に大きななすなので、花が咲いてから収穫までには約1ヶ月を要し(一般的ななすは約20日)、実が重くなるため、一つ一つの大きさを見極めながら、株ごとに倒れないよう手入れが必要です。
また、水やりなどの手間がかかり、成長に時間がかかる分、病気のリスクも高くなるので、栽培には高度な技術も求められます。

ぼたなす生産者 谷口精作さん
ぼたなす生産者 谷口精作さん
露地だけでなく、ハウスでの栽培にも挑戦している
露地だけでなく、ハウスでの栽培にも挑戦している

日南地区に伝わるぼたなすの歴史と謎

歴史的には、日南地区で約100年前から「ぼたなす」が栽培されていたことは確かですが、なぜこの地域にしか存在しないのかは不明のようです。
日南地区は「平家の落人伝説」が残る地域であり、その時代に持ち込まれた種が起源ではないかとも言われています。精作さんの亡くなったおじいさんも、「物心ついた時には既にあった」と語っていたそうです。

この土地にしかない「ぼたなす」を大切に守り続けたいとおっしゃる谷口さん
この土地にしかない「ぼたなす」を大切に守り続けたいとおっしゃる谷口さん

とろける食感を生かしたおすすめ料理

最後にお客様へのメッセージを律子さんにお伺いすると「ぼたなすは、定番は焼きナスや南蛮漬けが最適ですが、フライやグラタン風にすると若者にも食べていただけます。生産者が少なくなっていますが頑張って作っています。甘くてトロトロの感触をぜひ味わってほしいです」と語ってくれました。

料理長らもその大きさに驚きを隠せない様子
料理長らもその大きさに驚きを隠せない様子