
伝統製法の宗田節
高知県土佐清水市の港町に立つたけまさ商店の節納屋。大正元年(1912年)創業、三代目の武政嘉八さんが率いるこの老舗は、地元で「目近(めじか)」と呼ばれるマルソウダガツオだけを使い、百年以上受け継がれてきた伝統製法で完全無添加の『宗田節』をつくり続けています。「段取りが八割。あとは魚と火と向き合うだけ」と語る武政さん。76歳(※取材当時)になった今も、早朝6時から準備をはじめ、ほとんどの工程に関わっています。土佐清水で水揚げされる「目近(めじか)」は、鮮度が落ちやすく生食には不向きとされますが、手間ひまをかけて宗田節へと加工することで、唯一無二の香りと旨みに生まれ変わります。漁は伝統の曳き網漁によって行われ、魚は一尾ずつ丁寧に釣り上げられます。冷却されたまま港へ運ばれた魚は、そのまま市場に水揚げされ、非常に高い鮮度を保っています。港から加工場に運ばれためじかは、まず「釜立て」の工程へ。煮篭に並べられた魚は、カゴごと熱湯に浸け、およそ1時間かけて煮ていきます(煮熟)。これによって身が引き締まり、旨みがしっかりと閉じ込められます。
味をきめる熟練の技
冷ました後は「セイロ取り」へ。職人が一尾ずつ頭や内臓、中骨を取り除き、整った形に仕上げていきます。脂の多さを光沢で見極めながら、スピードと正確さが求められる作業です。節の形が少しでも欠けると価値が落ちてしまうため、20年以上の経験を持つスタッフがこの工程を担っています。続いて行われるのが、「焙乾(ばいかん)」と呼ばれる工程です。火の強さや煙の量を天候や風向きに合わせて細かく調整しながら、水分を飛ばし、燻煙によって豊かな香りをまとわせていきます。焙乾に使う釜の中は3段に分かれており、下段→中段→上段と位置を入れ替えながら、均一に燻していきます。仕上がりまでにおよそ1週間かかります。使用する薪は広葉樹のみ。ヒノキやスギが混ざると香りが強すぎて節の風味が損なわれてしまうため、専属の薪屋が選別した薪を使っています。「火の機嫌を見極めるのがいちばん大事」と武政さんは笑いますが、その表情は真剣そのものでした。さらに仕上げとして、天気の良い日には半日ほど天日干しを行います。自然の力でじっくりと水分を抜き、完成へと近づけていきます。こうして幾重もの手間と職人の技が重なり、めじかはやがて土佐の風味を凝縮した宗田節へと姿を変えていきます。
地産外商から地産地消へ
工場には、武政さんの長女と結婚した大阪出身の島谷真矢さんがIターンで移住し、四代目候補として修行中です。地元の方言である“幡多弁”に戸惑いながらも、武政さんが培ってきた経験や勘を見て聞いて徐々に体で覚え、言葉では伝えきれない熟練の技を少しずつ身につけています。近年は「地産外商」から「地産地消」へと方向転換し、製造に合わせて工場見学や削り体験の受け入れも行っています。商品展開も広がっており、節を丸ごと瓶に詰めて醤油を注ぐ「宗田節うまみ醤油づくりキット」は、家庭の食卓をワンランクアップさせたい方に好評です。料理人向けには、濃厚でコクのある出汁が取れる大型節や、香りの高い寒めじか節を等級別に提供し、蕎麦・ラーメン・うどん店などで“隠し味”として活用されています。土佐の海と薪の香り、そして職人の息づかいが詰まった一片の節。その背景にある丁寧な手仕事を、ぜひ城西館でご賞味ください。