うしの恵みを受けて

香南市にある「眞嶋農園」は、酪農と農業を融合させた循環型の営みが根づく場所です。酪農を担うご主人の眞嶋順一さんと、トマトや青パパイヤなどの野菜を育てる奥様の美加さん。家族経営のこの農園では、「牛の堆肥」こそがすべての農作物の原点になっています。牧場から毎日出る牛糞は、専用のレーンとコンベアを使って集められ、ハウス内で一次発酵を行います。60〜70度の高温で発酵が進み、湯気が立つほどです。その後、横長の発酵装置に移し、1ヵ月半かけてじっくり乾燥させます。できあがった堆肥は、さらさらで土の香りがするほどに成熟しています。眞嶋農園の堆肥の特長は、水分調整剤や添加物を一切加えない点にあります。99.9%が牛糞という純度の高い堆肥は、植物の根張りを良くし、土壌そのものを豊かにする力を持っています。この堆肥を求めて訪れる家庭菜園のファンも多く、袋詰めされた商品は人気を博しています。

生き生きとしたトマト

この堆肥だけで育つ「うしの恵みトマト」は、甘さと酸味のバランスに優れ、フルーツトマトとして多くの支持を得ています。コンピューター制御は使わず、温度や湿度の管理もすべて経験と五感に頼っています。防根シートも使わないため、根が自由に伸び、個性ある大きなトマトが育ちます。病害虫対策には、農薬を極力使わず、天敵昆虫「タバコカスミカメ」を自家繁殖して導入しています。自然界の力を借りて農薬使用を5分の1以下に抑えており、さらに青パパイヤの栽培にも挑戦し、無肥料・無農薬での成功を収めています。

 

笑顔育む取り組み

収穫されたトマトは、牛乳パック型のユニークな箱に詰められて販売されています。見た目のインパクトもあり、「うしの恵トマト」としての認知度は高まっています。さらにトマトジュースや加工品にも展開しており、年間1,000本を超える出荷実績を誇ります。息子さんも後継者として参画し、若い力が新たな風を吹き込んでいます。奥様の夢はまだ広がっています。牛乳でソフトクリームを作り、トマトジャムをトッピングしてキッチンカーで販売したい——そんな構想もあるそうです。「体にやさしくて、おいしいものをつくりたい」というまっすぐな気持ちが、家族経営の農園の芯を成しています。

牛から始まった堆肥が、土を育て、野菜を育て、また人の笑顔を育みます。うしの恵 眞嶋農園には、いのちがめぐる物語が静かに息づいています。