山地酪農

高知県南国市、緑豊かな山あいにある斉藤牧場。ここでは、親子二代にわたり自然と調和した山地酪農が営まれています。牛たちが芝を食べ、その排泄物が堆肥となり、再び芝を育てます。すべてがつながる循環のなかで、牛と人と自然が共に暮らしている牧場です。現在、牧場を運営しているのは斉藤佳洋さんです。約50年前、斉藤さんの父がこの山を切り拓き、雑木林を焼いて芝を植え、牛を迎え入れたのが始まりでした。今では、放牧された牛たちがのびのびと暮らす風景が広がっています。牛舎に戻るのは、朝晩の搾乳時だけで、日中は風の通る丘の上で自由に過ごしています。暑い夏の日中は日陰に逃げ込み、夕方になってからまた草を食べはじめる様子も見られます。

自然循環型の酪農スタイル

斉藤牧場の特徴は、単なる放牧にとどまらない、自然循環型の酪農スタイルにあります。牛が食べた芝が排泄物として土に戻り、その栄養でまた芝が育ちます。この堆肥循環の考え方が、牧場全体の生態系を支えています。芝の管理には手間がかかりますが、草の勢いが戻れば自然と牧場全体が整うといいます。肥料も今では使っておらず、堆肥と自然の力だけで成り立っているのです。

ノンホモジナイズ牛乳

斉藤牧場の牛乳は「ノンホモジナイズ・低温殺菌牛乳」です。脂肪球を砕かず、搾ったままの状態に近い牛乳を、低温でゆっくりと殺菌しています。この手間のかかる製法によって、牛乳本来の風味や甘み、コクが引き出されます。消費期限は短いですが、それだけ新鮮で自然に近い製品である証といえます。販売は「山地酪農を愛する会」経由で行われており、地域を越えてファンが広がっています。

牛との信頼関係を築いて

また、季節によってはたけのこの皮や農業残渣も飼料に活用しています。たけのこの皮は保存して発酵させ、冬場の貴重な餌となります。放牧されている牛たちは、自分の好きな場所で寝そべり、風を感じながら過ごしています。搾乳の時間になると鈴の音に誘われて戻ってくるという、まさに人と牛との信頼関係が築かれた環境です。「草を食べ、糞をして、その養分で芝が育つ。これが本来の酪農のかたちやと思うんです」と斉藤さんは語ります。作業は決して楽ではありませんが、自然の摂理と調和しながら日々を送る暮らしには、深い手応えと誇りがあります。機械任せではなく、目で見て肌で感じてこそ得られる感覚が、ここにはあります。放牧酪農を続ける酪農家は県内でも少なくなっているなか、斉藤牧場はその数少ない一例です。風の抜ける丘、広がる芝、のびのびとした牛たちの姿。そのすべてが、人と動物と自然との共生の証となっています。