伝統の漁法

江戸時代から続く日本古来の漁法に「定置網」というものがあります。江戸初期に山口県で始まった大規模な定置網「大敷網」は、西日本を中心に発展し、以来、日本の沿岸漁業における中心的な役割を担ってきました。特に高知県では、多くの定置網が今もなお重要な役割を果たしています。

その一つが土佐清水市、窪津漁港の大敷網漁です。ここでは冬の時期になると、寒ブリ、ハマチ、マダイ、イワシ、アジ、サバ、メジカ、本マグロ、カジキマグロといった多種多様な新鮮な海の幸が水揚げされます。海底の盛り上がりや瀬に黒潮がぶつかり、栄養分が巻き上げられる土佐清水沖は、まさに魚たちの楽園。美しい豊かな漁場で獲れる新鮮な地魚は、栄養をたっぷりと蓄えており、どれも絶品です。「清水の魚を食べよったら、他の魚は食べれん」と地元の漁師は口を揃えて言います。

 

魚任せ、潮任せ、風任せ

高知の定置網の最大の特徴は魚を誘導する垣網と囲い網の接点の一方が完全に閉じていることです。県外の網の場合は両方が開いており、垣網に誘導された魚は上り潮でも下り潮でも網に入りますが、窪津の大敷網は、下り潮でなければ魚は網に入りません。囲い網の両方が開いていると魚は入りやすいですが、その分逃げやすくなるそう。大敷網漁では、囲い網へ入った魚は一段箱網から二段箱網へと奥深く入って行き二段箱網を袋網として揚げて漁獲します。大敷網漁は、魚の行動、潮の流れ、風の向きといった自然の力に委ねられた漁法です。海の豊かさを守り、その美しさを次世代に引き継ぐことを可能にする海洋環境にも優しい漁法のひとつとも言えます。

清水を盛り上げたい

地元の清水高校を卒業後、一度は食品卸売企業の関西支店で働きましたが、25歳でUターンし高知県漁業協同組合清水統括支所へ転職。約23年間務めた後に退職し、これまでの経験や人脈を生かして地域に貢献できるようにと、48歳で窪津共同大敷組合の組合員となりました。人生で初の漁師としての生活をスタートし、「最初は体力的にきつかった」と川田さんは語りますが、前職での経験を活かし徐々に周りからの信頼を獲得。地域のために奮闘する愚直な人柄と仕事ぶりが評価され、組合員からの支持を受けて7年前に組合長に抜擢されました。現在は、ドローンを用いた漁師の仕事の動画をSNSで発信するなど、地域の魅力を伝える活動に力を入れています。また、土佐清水市での雇用創出を目指し、県外で開催される企業説明会にも積極的に参加。最後には、「清水の大敷網漁の認知度が高まり、需要が増えることで、若い世代が地元に戻ってきやすい環境ができれば」と今後の目標を語ってくれました。