
豊かな食文化
高知県の豊かな食文化の背景にあったのは、その恵まれた地形と気候でした。四国山脈の山々から、幾筋もの川が流れて緑豊かな畑を潤す変化に富んだ地形。海には、季節を告げる回遊魚、地付きの魚などがおり、陸には、伝統野菜、柑橘類、山菜などが実ります。松﨑先生も「日本の中でもこれだけ食材や料理が多彩なところは珍しい」と教えてくれました。また「土佐の料理はお酢ぜめ」と言われるほどお酢をたくさん使うのは冷蔵庫のない時代に高温多湿な高知県で食材の保存性を高めるため。先人たちが工夫を重ねてきた歴史が高知の食文化を醸成し、その知恵は今日まで大切に受け継がれてきました。


鯖ずしの歴史
高知の郷土料理「皿鉢料理」に欠かせない、松﨑先生も大好きな「鯖ずし」。古くから県内でよく獲れた鯖は、その昔山村に運ぶ為水揚げしてすぐに捌き、濃い塩をもんで鮮度を保っていました。高知では「山の鯖ずしがうまい」という定説があり、その理由を科学的に研究したところ、鮮度を保つため水揚げした直後に塩振りをする工程が味わいに良い影響をもたらしていることが明らかになりました。山村ではお米がご馳走だった為、ハレの日の『おきゃく』で作る鯖ずしには酢飯をこぼれんばかりに入れるのが昔からのおもてなし。松﨑先生特製の鯖ずしでは、ゆの酢(ゆず100%の果汁)をたっぷりと使用するのが特徴です。

土佐酢みかん
また、高知県には「土佐酢みかん」という果汁の酸味や果皮の香りを楽しむ香酸柑橘類を料理で使用する文化があります。高知では古くから親しまれ、ゆずは土佐酢みかんの代表ともいえます。その昔、土佐酢みかんのひとつブシュカンの木に青い実がつきはじめるのを見て、シンマエ(宗田鰹の幼魚)の旬の訪れを自然に知っていたと語ってくれました。シンマエのお造りにブシュカンを絞って食べるのがこれまた絶品なのです。伝統食や土佐酢みかんの文化は県民の食生活に密接に関係しており、地形や気候は食文化に大きな影響を与えていました。今回、松﨑先生から教わった土佐伝統食の歴史や文化、調理法をもとに、松本総料理長は鯖ずし、斉藤シェフは田舎寿司を現代風にアレンジしました。松﨑先生にも確認をいただき、今回の150周年記念宿泊プランに取り入れることができました。私たちはこれからも土佐伝統食の文化と、食を通じた人々の心の絆を大切にしてきた松﨑先生の想いも微力ながら未来へと紡いでいきます。