
ニラの都・香南で “旬の緑” を耕す
高知龍馬空港から車でわずか10分。日照時間が全国トップクラスを誇る香南市野市町で、古川司さんはまっすぐに延びるハウス群の奥でニラの葉先を丁寧に確かめています。ご夫婦で経営されている古川農園はニラ専作で年間5~6回の収穫を行い、ハウス4反・露地2反の計6反を耕しています。最盛期には北海道にまで出荷されるほどの人気です。

10年スパンで“育土”に挑む
「良い土なら、だれが作っても健やかに育ちます。難しいのは、連作疲労をどう抑えるかです」と古川さんは語ります。ニラは同じ畝を数年にわたり使い続けるため、有機たい肥と微生物を組み合わせた土作りこそが要です。しかし結果が出るまでには十年以上かかると言います。夏場は雨除けフィルムを外し、台風に備えてビニールを全巻き上げます。冬は二重張りで保温しつつ暖房を使わず、海が近い地の利で夜温を確保しています。

50日サイクルのリズム
定植から3か月後に初刈りを行い、以降はおよそ50日ごとに収穫を繰り返します。夏は40日足らずに短縮されがちですが、「早刈りすると甘みが薄くなるため、45日はキープします」とこだわります。収穫は高知大学農学部の学生アルバイトが夜明け前から鎌で刈り込み、スプリンクラーで朝露を再現。冬は週2回、夏は毎日水やりを行い、株を休ませずに年5~6回の収量を確保しています。
ハウス栽培が主流の香南市ですが、古川農園は2反をあえて露地に切り替えました。自然のまま育つ夏ニラは香りが強く、焼肉店やエスニック料理店からの指名も多いそうです。

“独学10年”が生んだ底力
大阪からUターンして13年目。「最初の5年間は失敗ばかりでしたが、やっと手応えを感じられるようになりました」と笑う古川さん。台風対策に右往左往した初年度の苦労を今も忘れません。高知ニラの施設栽培発祥地として長年培われたノウハウを、地域全体で共有する“横のつながり”が独学を支えました。
“緑のバトン” を未来へ
ハウス内が40℃を超える近年、葉先の枯れによる歩留まり低下が課題になっています。それでも古川さんは「冬需要だけに頼らず、一年中楽しめる新しい食べ方を提案し続けたい」と前向きです。青々と立ち上がるニラ畑を進むと、海風に揺れる若葉の香りが鼻を抜けます。太陽のエネルギーを纏った“旬の緑”が、一皿の彩りと滋味を皆さまへ届けてくれる日も近いでしょう。古川農園のニラは、土と向き合い続ける粘り強さと、地域の知恵を結集した技術が育んだ“香南の誇り”です。ご宿泊の際は、料理長が引き出す香りと甘みを、ぜひお楽しみくださいませ。





